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詳しく知りたい不妊治療不妊治療

1. 不妊治療について

「不妊」とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、1年を経過した時点で妊娠しないものをいいます。そのような場合には不妊検査を受ける対象となり、検査結果から治療の方針が決められます。ただし、子宮内膜症、子宮筋腫、極端な月経不順などがある場合は、これより早く医療機関を受診する方が妊娠の確率は高くなると考えられます。

治療方針は大きく2つに大別されます。一つは不妊の原因が明らかとなった不妊症、もう一つは原因不明不妊症です。原則として不妊原因に即した治療を行うことになりますが、身体的、経済的に負担の少ないものから選択していきます。

経済的な負担を考える上で、不妊症に対する治療には保険適用の場合と自費診療の場合があることを知っておいてください。

<保険適用>

  • 排卵誘発剤などの薬物療法
  • 卵管疎通障害に対する卵管通気法、卵管形成術
  • 精管機能障害に対する精管形成術

<自費診療>

  • 人工授精
  • 体外受精

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2. 不妊治療の進め方

不妊治療は不妊原因を正確に診断し、原因に則した治療を選択することが原則です。女性側は、排卵因子、卵管因子、子宮因子、子宮頸管因子が主であり、その他、子宮内膜症や原因不明不妊症が挙げられます。男性側は、乏精子症、精子無力症、無精子症などの造精機能障害や勃起障害や膣内射精障害などの性機能障害が挙げられます。しかし、不妊原因の約3割とも言われている原因や病態が良く分かっていない原因不明不妊症が存在するなど、どのような治療を選べば妊娠に至るのかを判断するのが難しい場合もあります。不妊治療は前項でも記載しましたが、身体的、経済的に負担の少ない治療法から選択し、順にステップアップすることが基本になります。

また、女性の年齢、不妊期間および不妊既往の有無により妊娠の予後は異なってきます。特に年齢は大きな影響を及ぼします。35歳以上では妊娠率は大幅に低下し、また不妊期間が3年以上である場合、今までに妊娠したことがない場合には妊娠した後の予後が良くありません。従って、妊娠した後の予後が良くないと思われる方では短期間に治療のステップアップを行うことが必要になります。

身体的、経済的に負担の少ない治療法の選択とともに、妊娠の予後に大きく影響する不妊期間や年齢を考慮した治療法の選択も重要になってきます。

以下には不妊治療全体の進め方の概略(図1)を示し、内容を簡単に説明します。次の項目でもう少し詳細に説明を行っていきます。

①卵管・子宮因子

卵管狭窄(卵管内の幅が狭くなる)や卵管閉塞(卵管がつまる)のある方など卵管の質的な機能に原因がある場合があります。卵管が閉塞している場合や卵管の周囲が癒着(体の一部、皮膚・膜などが、炎症などのためにくっついてしまうこと)している場合には、手術治療や卵管カテーテルを用いた卵管形成術を行うことが検討されます。卵管留水腫には体外受精が検討されますが、体外受精後の着床率が低下するため、体外受精前に卵管切除が推奨されています。

子宮の質的な機能に原因がある場合があります。その代表は子宮筋腫ですが、特に粘膜下筋腫の治療には手術が有効とされています。

卵管留水腫:感染や子宮内膜症の炎症などによって卵管が詰まってしまい、卵管液(血液・膿など)が卵管にたまる症状のことをいいます。

②頸管因子

頸管粘液に異常があれば人工授精を行います。

③排卵因子

排卵障害に対しては排卵誘発薬を用いた卵巣刺激を行います。クロミフェンやレトロゾール(保険適用にはなっていません)などの内服薬やhMG(ヒト下垂体性性腺刺激ホルモン)やFSH(卵胞刺激ホルモン)製剤による注射剤による治療が行われ、タイミング法の適応となります。

④子宮内膜症

子宮内膜症患者では 30~50%が不妊症という調査結果があり(「日本子宮内膜症啓発会議 子宮内膜症 Fact Note 2013年11月20日発行」)、不妊になる確率はかなり高いと言えます。

子宮内膜症不妊に対しては腹腔鏡により病気の進行度を観察し、軽症の場合には腹腔鏡下での手術により妊娠率は向上するとされています。重症例に対しては手術により卵巣機能が低下するため、十分に卵巣機能が保たれている方、片側性、疼痛などの症状がある方は手術の適応になりますが、それ以外の方では不妊治療が優先されます。

⑤男性因子

低ゴナドトロピン性の性腺機能の低下に対してはhMG(FSH)やhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)製剤によって造精機能障害の回復が見込めることがあります。精液所見の程度によって人口受精、体外受精や顕微授精が検討されます。重度の乏精子症や無精子症では体外受精や顕微授精が第一選択となります。

⑥原因不明不妊

判明している不妊原因だけではなく、一般不妊検査では判明しない受精障害や卵子のピックアップ障害などの可能性を考えて、原因不明不妊に対する治療を検討します。タイミング療法→人工受精→体外受精というステップアップが一般的です。しかし、最近では年齢や不妊期間によっては積極的なステップアップや最初から体外受精を選択するという考え方もあります。

不妊治療全体の進め方の概略

不妊治療の進め方概略

図1 不妊治療の進め方概略(竹田省ら 不妊症・不育症治療2018 p43 一部改変)
<図の用語説明>
  • タイミング法
    タイミング法は超音波や基礎体温、LH(黄体化ホルモン)測定により排卵日を推定し性交を促す指導法です。両側の卵管閉塞や重度の乏精子症・無精子症がない場合には適応となります。
  • 人工授精(配偶者間人工授精)
    排卵日に合わせて調整した精液を子宮内に注入する治療法です。上記のタイミング法と適応は同じですが、勃起障害や膣内射精障害などの性交障害のある方も適応になります。
  • 体外受精
    卵子と精子を体外に取り出し、体外で受精を行う環境をつくる治療です。受精が確認できたら受精卵を培養して胚まで育て、その胚を子宮に戻す治療法です。卵管性不妊や乏精子症・精子無力症・精子不動化抗体による免疫性不妊、原因不明不妊症が適応になります。
  • 顕微授精
    体外受精と同様に卵子と精子を体外に取り出しますが、顕微授精では細いガラス針の先端に1個の精子を入れて卵子に顕微鏡で確認しながら直接注入します。重度の乏精子症・精子無力症や通常の体外受精では受精が難しい受精障害のある方が適応になります。

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3. 不妊治療の方法(個々の因子に対する治療)

(1)卵管・子宮因子
1)卵管因子

卵管不妊には①卵管内腔病変(卵管の中が詰まっていたり[閉塞]、狭くなっていたりする症状[狭窄])②卵管周囲病変(卵管の外側・周辺部に病変があったり、卵管の周囲が癒着していたりする症状)に大きく分けられます。これらの症状によって治療方が選択されます。

また、クラミジアに感染すると卵管の閉塞や周囲の癒着を発症してしまう場合があります。その場合には薬物による治療を行います。その他、卵管の現在の状態や治療後の状態によっては体外受精が適応になる場合があります。

①卵管内腔病変

  • 卵管通過性(卵管の通り具合)を確認するとともに軽度の通過障害が改善を目的として「子宮鏡下選択的卵管通水」を行います。子宮ファイバースコープ(細い内視鏡)を使って左右の卵管内に卵管カテーテルを各々入れて行きます。そこから生理食塩水等を注入することにより卵管通過性を確認します。
  • 卵管の通り具合が悪い場合には、その通りを良くするとように「卵管鏡下卵管形成術」を行います。卵管通過性(卵管の通り具合)回復効果に対して一番有効な治療法と言われています。バルーンカテーテル(先端が風船状となっており、内部で膨らませることにより、治療や処置を行う)を卵管内に入れ、卵管の中を傷つけることなく前へ移動させます。癒着がある場合にはそれを取りながら、バルーンカテーテルを膨らませて卵管の中を広げ、卵管の通過性を改善させます。

②卵管周囲病変

  • 卵管周辺の病変の主なものは卵管采(卵巣から排出された卵子を吸い上げて卵管に送る器官)癒着や卵管周囲の癒着になります。これらの癒着の剥離(はがしていくこと)を目的として「腹腔鏡下手術」が行われます。
  • 卵管留水症については「腹腔鏡による卵管開口術」が第一選択になります。卵管開口術とは卵管が閉じてしまっている部分を切除し、再びつなぎ合わせる方法をいいます。この手法を使って卵管留水症によって腫れている卵管のみを切除し、癒着がある場合にはその癒着の剥離も同時に行います。上記のような直接的な治療を行わずに、卵管留水症を有する方に体外受精を行っても効果は少ないと言われています。従って、体外受精を行う前に、以上のような方法によって卵管の切除が行われます。
2)子宮因子

①子宮筋腫

近年はより体に負担の少ない治療が選択される傾向にあり、また年齢、不妊の原因、不妊の治療期間を考え、治療を始める前の卵子、受精卵の確保なども考慮した治療が行われるようになってきました。妊孕性(妊娠のしやすさ)を残す治療法として薬物療法と手術療法があります。
薬物療法としてはGnRHアゴニスト(ゴナドトロピン放出ホルモンアゴニスト)を使用します。また、手術療法には開腹手術と内視鏡手術があります。現在では体や精神的な負担の少ない内視鏡手術が主流になってきています。特に不妊の原因となる可能性が高い粘膜下筋腫では、内視鏡施術の1つである子宮鏡下手術によって切除されます。

②子宮内膜ポリープ

子宮内膜ポリープとは子宮内膜が厚くなる、または増殖して局部的に子宮の内側に出て来てしまったものをいいます。不正子宮出血、月経過多、過長月経、月経困難などの症状があり、不妊の原因になります。
治療法として薬物療法と手術療法があります。まだ、データ的には多くありませんが、ポリープの除去・切除が妊娠率、着床率、子供が生まれる可能性を高めると言われています(Liengら Acta Obstect Gynecol Scand 2010:89:992-1002)

(2)頸管因子

①頸管粘液に異常

精子の進入を妨げてしまうため治療として人工授精を行います。

②感染症

ブドウ球菌、クラミジアや感染症淋菌などの感染症が見つかった場合にはその治療を行います。

③抗精子抗体陽性

後天的に発生した抗体は治療が可能です。コンドーム療法は性交時にコンドームを着用し、抗原である精子を体内に入れないことで抗体の力を弱めます。また、女性側が抗精子抗体陽性で抗体価が低い(抗体の力が弱い)方は人工授精が検討されますが、抗体化が高い(抗体の力が強い)方には体外受精または顕微授精の治療が検討されます。

(3)排卵因子

排卵障害に対しては排卵誘発薬を用いた卵巣刺激を行います。クロミフェンやレトロゾールなどの内服薬やhMG(ヒト下垂体性性腺刺激ホルモン)やFSH(卵胞刺激ホルモン)製剤による注射剤による治療が行われます。また、カウフマン療法というホルモン療法があります。ホルモン剤を使うことにより女性の体内で起こる「自然な月経周期」を再現して治療します。これらは排卵日を推定し性交によって妊娠を目指すタイミング法の適応となります。

また、排卵障害の原因としては、プロラクチンという乳汁を分泌させるホルモンの分泌が増える高プロラクチン血症により卵巣機能を抑制されてしまう場合、多嚢胞性卵巣症候群による卵巣内の男性ホルモンが高まることにより排卵がうまく行われないという場合が挙げられます。各々の治療法も紹介します。

①高プロラクチン血症(PRL)

高プロラクチン血症の原因として下垂体に発生するPRL産生下垂体腺腫(プロラクチノーマ)が最も多いとされています。その他の原因としては視床下部(プロラクチンの分泌は脳の視床下部という所でコントロールされています)の機能障害よる高PRL血症や原発性甲状腺機能低下症、および薬剤性高プロラクチン血症(ドーパミンをブロックする睡眠薬、精神安定剤、胃薬)が挙げられます。

薬剤性については原因となる薬剤を休止あるいは他の薬剤に変更してもらいます。原発性甲状腺機能低下症では甲状腺ホルモン薬を、機能障害よる高PRL血症にはドパミンアンタゴニスト製剤を使われます。プロラクチノーマについてはドパミンアンタゴニスト療法と手術療法のいずれかがその症状によって選択されます。

②多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

PCOSの治療方針は2007年日本産科婦人科学会 生殖・内分泌委員会において新基準が採用されました。挙児希望(子供を持つことを希望する)がある場合には排卵誘発法を中心とした不妊治療が中心となります。クロミフェン療法、ゴナドトロピン療法の他、手術療法として腹腔鏡下観察下で両側卵巣に小さな穴をあけ腹腔鏡下の卵巣多孔術(LOD)が行われます。詳しいことははっきと分かっていませんが、穴をあけることで卵巣にある細胞が壊されて、卵巣刺激するホルモン(LHとFSH)のバランスが整うという説が有力のようです。ゴナドトロピン療法やLODで排卵や妊娠が認められない場合や副作用が認められた場合には体外受精が適応となります。

(4)子宮内膜症

子宮内膜症が進行することによって、卵巣チョコレート嚢胞(卵巣に発生した内膜症)や子宮内膜症病変による癒着が起き、卵管の動きを悪くしてしまうことや卵管の通過性を悪くすることで不妊になります。子宮内膜症になると高い確率で不妊症になることが知られています。

重症度の高い方は手術を行い、その後、体外受精を行うという積極的な治療を検討する必要があると思われます。

手術を行う場合には、術後に自然妊娠ができるようになる可能性があります。その累積妊娠率は初期の子宮内膜症であれば20~30%で、卵巣嚢腫摘出まで行うと50~60%になるという調査結果があります。しかし、術後1年間妊娠しない場合は、子宮内膜症の再発や加齢に伴う妊娠率の低下を考えて、体外受精に進むことも検討する必要があると言われています(竹田省ら 不妊症・不育症治療2018 p187)

(5)男性因子

造精機能障害に対する薬物治療には内分泌療法の他、ビタミン剤、サプリメントや漢方薬などが使われています。また、精索静脈瘤(精巣上部や周辺の静脈が拡張した状態)には手術療法、閉塞無精子症では精路再建術(精管に閉塞がある場合)、非閉塞性無精子症には手術用の顕微鏡下で精巣内にある精子を回収する方法が行われています。

男性側が抗精子抗体陽性の場合、精子の運動性を悪くして自然妊娠が難しくなることがあります。精子運動率が悪い場合やなかなか妊娠しない場合は、人工授精や体外受精・顕微授精の適応になる場合もあります。

(6)原因不明不妊

タイミング療法→人工受精→体外受精というステップアップが一般的です。不妊期間が短く、女性の年齢が若い場合には妊娠率は高く、30歳未満・不妊期間2年以内では経過観察のみで累積妊娠率は60%以上ともなると言われています。しかし、不妊期間が長く、高齢になると妊娠率も下がってきます。

また、原因不明不妊に対して排卵障害の有無にかかわらず排卵誘発といった薬物療法が行われることが多いのですが、その有効性は明確ではありません。

原因不明不妊と診断された場合、女性の年齢や不妊期間を考えながら、さらなる原因を探しながら治療を検討していくことになります。身体的にも経済的にも負担が少なく、効率のより治療法から開始するのが良いのですが、高齢の方の場合には一般的な治療を行わずに体外受精を選択することも考えた方が良い場合もあります。

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